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院長講座「子宮頸がんワクチン」

2021-11-30

子宮頸がんは子宮の入口(頸部)にできるがんで、日本では毎年1万人が子宮頸がんにかかり、約3千人が亡くなっており、近年は若い世代で多くなっておりピークは30代です。

20代、30代の女性で子宮頸がんのために妊娠できなくなる女性が毎年1200人います。なぜなら子宮頸がんは初期でも治療は広範囲に子宮を摘出することになるからです。それゆえ、子宮頸がんはマザーキラーと呼ばれています。この妊娠・出産・子育ての時期に罹患してしまう子宮頸がんの殆どは、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が原因と言われており、特に2つのタイプ(HPV16型と18型)によるものが子宮頸がん全体の50~70%を占めており、そのHPV感染を予防するワクチンが子宮頸がんワクチンです。子宮頸がんワクチンでのHPV感染予防と、20歳以降の定期的な子宮がん検診受診とで子宮頸がんはかなり予防でき、子宮摘出もかなり予防できます。

子宮頸がんワクチンは、2013年に定期接種となりましたが、その後副作用の可能性がマスコミで大々的に報道され『積極的勧奨の中止』となっています。当時、子宮頸がんワクチンの副作用で、歩けなくなった・計算ができない・痙攣するなどの症状を訴える、車いすの少女たちの、衝撃的な映像が、連日マスコミにより報道されました。しかしその後、厚生労働省の調査の結果、マスコミで報道されたような、多様な症状の原因が、子宮頸がんワクチンであるという、科学的証拠がなく、子宮頸がんワクチンとの関連は否定されています。子宮頸がんワクチンを打ってない人たちにも、同程度に、急に歩けなくなった等の様々な症状を訴える症例があることが、名古屋市の調査でも報告されています。

世界を見渡せば2007 年に世界で最初に、子宮頸がんワクチン公費助成プログラムを導入したオーストラリアをはじめ、先進国を中心に、接種費用を公費で助成する国は、70か国以上にのぼっています。WHO(世界保健機構)をはじめとする、世界の主要な国際機関や政府機関は、子宮頸がん予防ワクチンに関し提供されている、あらゆる安全性情報を検証した上で、引き続き接種を推奨しています。

実際に子宮頸がんワクチンを導入した国(オーストラリアやアメリカ、イギリス等)では、すでに子宮頸部の前がん病変の減少が認められていますし、フィンランド、デンマークからは、実際のがんの減少が、オーストラリアでは、接種を受けていない集団でのがんの減少(集団免疫)も確認されています。

ただ我が国では当初子宮頸がんワクチンの接種率は、70%以上でしたが、『積極的勧奨の中止』によりその存在すら認識されなくなり、現在は接種率1%未満となっています。そして子宮頸がんワクチンを受けなかった世代が子宮頸がんを発症する年代となり、われわれは、今後の子宮頸がんの増加に危機感を感じています。最近は自治体によっては、独自に定期接種であることを周知するなどの動きも出てきてはいます。

『積極的勧奨の中止』はまだ現存していますが、子宮頸がんワクチンは2013年4月1日以降ずっと定期接種ではあり、現在も定期接種として受けることができます。子宮頸がんワクチンは、性交渉を経験する前の10歳代前半に接種をすることが推奨されており、定期接種は小学6年生~高校1年生の間に3回接種するスケジュールで、標準的には中学生~高校1年生での接種です。初回接種後6か月後に3回目の接種になるので、遅くとも高校1年生の9月までに開始しないと定期接種での接種から外れてしまいます。定期接種を外れてしまうと任意接種(有料)となり、1回16000円x3回=48000円の費用がかかります。また、副反応が起きた際の対応も、定期接種法ではなく医薬品医療機器総合機構法対応となってしまいます。

最近、厚労省はこの『積極的勧奨の中止』の撤回の議論を始め、来年4月を目処に再開を決めました。しかし、今はまだ、『積極的勧奨の中止』のため市や区から問診票は送付されてこないと思いますので、対象の女児には、定期接種で受ける権利があることをお伝えしたいと思います。

こどものクリニック中山医院 院長

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