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院長講座「遅れている日本のワクチン事情」

2022-01-24

就学前(5-6歳)の3種混合ワクチンについて
2000年代以降、百日咳患者の増加が世界的に問題となっています。
百日咳に対する抗体(免疫)が含まれる予防接種として、多くの人は0歳時に3種混合ワクチン(現在は4種混合ワクチン)を3回接種し、1歳時に追加接種し、合計4回接種をします。その効果もあり、1歳代の抗体保有率は90%を超えています。従来この抗体保有は、大人になるまで保持されるとされてきましたが、4回のワクチン接種終了後抗体保有率は減少し、5-6歳では30%以下になっていることが最近の研究で分かってきています。

その後、5歳以降は再び抗体保有率が上昇しますが、これは自然感染によるものと、考えられています。実際、日本における年齢別の報告数を見てみると、おおよそ6-14歳の人で多くなっています。もし6-14歳の子たちで流行してしまうと、重症化してしまう人は少ないものの、小中学校での集団感染が起こり、しばしば、地域的な流行が起きてしまいます。この流行から、ワクチン未接種の乳児(特にその子たちの弟、妹)に感染してしまった場合、命に関わってしまうこともあります。このことから、多くの先進国ではすでに、百日咳含有ワクチンの接種が就学前・学童期に組み込まれているのです。

 

不活化ポリオワクチンについて
ポリオについてですが、ポリオウイルスとは、急性灰白髄炎の原因となるウイルスで、重症な場合、手足の麻痺などの後遺症を引き起こすウイルスです。現在ワクチンの開発により、世界的にポリオ発生報告数は、大幅に減少しています。日本では従来「経口生ポリオワクチン(OPV)」が流通しておりましたが、2012年に安全性の高い「不活化ポリオワクチンIPV」に切り替わり、現在は、4種混合ワクチン(DPT-IPV)に含まれ、多くの方がIPVを接種されています。IPVは、OPVよりも抗体保持が低く、IPVで接種を勧める場合、幼児期での追加接種のほうが長期的に抗体保持されやすいとされているため、幼児期での追加接種が必要です。すでに多くの国で、4歳以降の追加接種は導入されておりますが、日本ではまだ、定期接種では行われておりません。ポリオの自然発生報告は、アフガニスタン・パキスタン・ナイジェリアで、報告されているのみで、日本での報告はありません。しかし、海外から持ち込まれる可能性はゼロではありませんし、実際に、国内の下水から、ポリオウイルスの検出の報告もあります。

アメリカ、カナダ、ドイツ、イギリス、フランスなどの先進国の国々では就学前(5歳時)に、3種混合ワクチン、ポリオワクチンの追加接種が定期接種(公費負担)として、何年も前から行われています。残念なことに予防接種行政の遅れている日本では、まだ行われておりません。乳児の百日咳の危険をなくすため、そしてポリオウイルスの感染の危険はまだあるため、就学前の、これらのワクチンの接種を、おすすめしております。

こどものクリニック中山医院 院長

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