~院長講座~ 「はちみつ(蜂蜜)は良好な咳止めだった」
まず、注意事項を書いておく必要があります。1歳未満の子どもには蜂蜜を与えることでボツリヌス症を起こすリスクがあるため、与えないよう注意してください。
蜂蜜は、古代ギリシャや古代ローマの時代から傷薬など、病気、怪我に使っていたとされています。そして、咳に対して蜂蜜が有効であるという報告が、ここ数年で出てきています。
これらの論文をもとに、W H Oも特に医療アクセスの悪い発展途上国を中心に、咳に対しての薬として推奨しています。
いくつか研究がありますが、 Paul らは、就寝前に「スプーン1杯(2.5mL)の蜂蜜を摂るグループ」、「咳止めを飲むグループ」、「何もせず様子をみるグループ」のいずれかに無作為に割り付けた研究で、蜂蜜を与えられた子どもで、有意に咳が減少することを報告しました。その後、Cohenらは、就寝前30分にスプーン1杯の蜂蜜を投与することで咳が減るかどうかを検証し、蜂蜜は子どもの咳が軽減しただけでなく、親の睡眠状態も改善することを証明しました。OduwoleらやAbuelgasimは、過去の複数の研究をまとめて解析していますが、「急性の咳に対する蜂蜜は、何もしないよりは咳止めの効果があり、既存の咳止めと大差がないほど効果的」という結論を出しています。これらのいくつかの研究で使われている蜂蜜は、ユーカリハチミツ、シトラスハチミツ、シソハチミツ、アカシアハチミツとさまざまで、蜂蜜の種類によって効果が異なるわけではなさそうです。
ただ、これらの論文を見ると、優れた咳止めと捉えがちですが、これらの論文は、統計学的に差があったという話だけで、どのような理由で蜂蜜が咳止めの効果をもたらしているかを証明していません。蜂蜜が複数の抗酸化物質を含んでいるからではないかという見解、甘みを感じる神経が咳に関与しているのではないかという見解はありますがあくまで見解の域を出ていません。また、咳の原因によっては効果がないことも考えられますので、蜂蜜は、あくまでも応急処置として考えて、原因の検索のためにも受診するようにしてください。
また、これらの論文はすべて1歳から5歳の子供を対象にしていますので、成人では、効果があるかは証明されていません。
(1) Paul IM, et al. Arch Pediatr Adolesc Med. 2007 Dec;161(12):1140-6.
(2) Cohen HA, et al. Pediatrics. 2012 Sep;130(3):465-71.
(3) Oduwole O, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2018 Apr 10;4(4):CD007094.
(4) Abuelgasim H, et al. BMJ Evid Based Med . 2021 Apr;26(2):57-64.
(5) Eccles R, et al. Respir Physiol Neurobiol. 2006 Jul 28;152(3):340-8.
中山医院 院長 中山豊明